ダイヤモンド酒造
山梨県
飲みニケーション能力の高い、世界屈指のワイン職人
人生の中で、美味しさが衝撃的で記憶に残り続ける料理やお酒って皆さんにもあると思います。私にとってダイヤモンド酒造さんの赤ワインがそのうちの1本。まだ私たちが日本ワインの美味しさに気づいていない頃の話です。家族で山梨県にキャンプに行き、いつも立ち寄る「ひまわり市場」というスーパー(鮮魚売り場では本物の寿司職人がパック寿司を握っている面白いスーパーです)のワイン売り場で、自分たちの土産用に何気なく買った赤ワイン。その美味しさにビックリ!スイスイ飲んでいるうちにあっという間に1本空いてしまいました。瓶を捨てた後も、なんとなく、平仮名で『ますかっとベーリーA』と書いてあったラベルデザインと、ワインの美味しさがずっと記憶に残っていました。それから時が経ち、こうして日本ワイン店をオープンするにあたって絶対に取扱いたいと思っていたので、願いかなってお取引出来ることになり、いざダイヤモンド酒造さんにお会いする時はすごくワクワクしました。
山梨県甲州市勝沼町、一本の通り沿いにいくつものワイナリーが点在する勝沼町の中心地にダイヤモンド酒造はあります。山梨県内には、昔(昭和14年、終戦間近の頃)近隣の農家がブドウを持ち寄ってワインを作っていた共同醸造所が点在しており、ダイヤモンド酒造さんは元々その共同醸造所「石原田葡萄酒醸造組合」でした。昭和38年から現在の㈱ダイヤモンド酒造となったワイナリーへ伺うと、今も当時の面影そのまま、レトロな看板が出迎えてくれました。
お話を伺ったのは現在醸造を務める三代目の雨宮吉男さん。マスカット・ベーリーAという日本固有品種の黒ブドウを使った雨宮さんがつくる赤ワインは、高名なソムリエや評論家から高く評価され、日本を代表する赤ワイン。他のワイナリーの方から「(雨宮さんの)機嫌が良ければ取引してくれるんじゃない?」と言われたり、Facebookのメッセージで中々返信が来なかったりしたので、勝手に「異端児」のイメージを抱いていました。でも、会ってみると印象は「職人」といった感じ。私に1アイテムずつ丁寧にワインの作り方や畑について説明してくださるのですが、内容が非常にロジカルで理科の授業を聞いているようした。醸造において幾多ある変数を一つずつ読み解き、自分がつくりたいワインにとって、その変数をどう調整すれば良いか、緻密に考え抜かれていることが良く分かりました。雨宮さんはフランスのブルゴーニュでワインづくりを学び、その経験を活かして、契約農家さんがつくる甲州やマスカット・ベーリーAといった日本固有品種でワインづくりをされています。印象的だった言葉は「マスカット・ベーリーA(という品種から作られる赤ワイン)が下に見られるのが嫌なんですよね」という言葉。確かにマスカット・ベーリーAは「軽い」、「甘め」、だから「ちょっと安いはず」というイメージがある人も多いかもしれません。でも、雨宮さんのつくる赤ワインを飲んだら、一気にそのイメージが覆るでしょう。しっかりとした深みとエレガントさがあり、でもマスカット・ベーリーA特有の香りもする、そんな赤ワインです。
勝沼町で生まれ育ちながら、「マスカット・ベーリーAとはこんな味わい、甲州とはこんな味」という周りの同調圧力なんて全くアウトオブ眼中。本場ブルゴーニュで学び見出した自分が考える「良いワイン」を真っ直ぐに追求していらっしゃいます。その上で、地元である勝沼町の栽培農家さんがつくるブドウのポテンシャルを最大限に引き出していく、雨宮さんはそんな「職人」なのです。
雨宮さんは全国のマスカット・ベーリーAを栽培醸造するワイナリーの有志団体「MBA1927→」や、山梨県内の若手醸造家グループ「アッサンブラージュ」など、率先して意見交換できる場を率いていらっしゃいます。「まぁ最初は、飲み会やろ~って皆に声かけただけなんすけどね。」と言う雨宮さん。兄貴分として皆をまとめよう、と言うよりも、自分がワインづくりを突き詰める中で、純粋にもっと学びたい、という職人としての探求心と、その飲みニケーション能力が掛け算された結果なのだと思います。
皆さんも是非、「MBAのイメージを覆す1本」を堪能してください。あ、甲州のワインもめちゃくちゃ美味しいです!
文/写真:加藤曜子