domaine tetta
岡山県
岡山の山奥から世界を見据える商売人
岡山空港から山道を車で走ること1時間と少し。ナビ通りに車を走らせるものの本当にこんなところにワイナリーがあるのか思いつつ、山あいの道にさりげない道案内の看板を見つけてたどり着いた岡山県新見市哲多町にdomanine tettaはありました。そう、tettaと言われて、「テッタ」という名前の方が創業したのかと思った方もいるかと思いますが、ワイナリー名は哲多(てった)の地名に由来するのです。
〇一風変わった生い立ちを歩んできたワイナリー
この新見町出身で三代続く建設業を営む高橋竜太さんは、代々続く家業を継ぐだけでは飽き足らず「ベンチャービジネスに挑戦をしたかった」と言います。2009年に、荒れ果てたらブドウ畑をそのままにしておきたくはないという想いで、地元のブドウ畑だった耕作放棄地を引き受けて、ブドウづくり、ワインづくりへの挑戦をスタート。2017年からワインのリリースを開始しています。いまも、建設業とワイナリー経営の二足のわらじをはいています。案内して頂いた、かつては耕作放棄地だった8haに及ぶブドウ畑には、シャルドネ、マスカット・ベーリA、ピノ・ノワール、カベルネフラン等のヨーロッパ系の品種だけでなく、ピオーネ、安芸クイーンといった生食用のブドウ品種も植えられています。このブドウ畑の特徴は、日本では珍しいフランスの銘醸地に似た水はけのよい石灰質土壌にあります。そして、標高400~600mに位置しており、畑を吹き抜ける風が、夏場に湿気を飛ばしてくれ、昼夜の寒暖差を生み出すというブドウ栽培の好適地。
〇面倒見がよく、低姿勢な親方
建設業とワリナリー経営の二足の草鞋をはく高橋さん。これまでのメールでのやり取りでは簡潔なそっけない返事。建設業を営んでいた方と知っていたので、大胆で豪放な性格の方を勝手に想像していました。はい、申し訳ございません。一度、話を始めたら、我々がどういった想いで日本ワインを扱っているのか、どんなバックグランドを持った人間なのか、丁寧な質問を重ねて、頷きながら話を聞いていただき、とっても聞き上手な方なのです。夫婦二人でスタートしたばかりの会社であるにもかかわらず、丁寧に御社と呼んでくださり、帰り際には「社長にもよろしくお伝えください」と送り出していただきました。そんな高橋さんを中心に作られる、domaine tettaのワインは、減農薬、除草剤なしで育てられた自社栽培のブドウのみを使用し、野生酵母、亜硫酸塩は最小限の使用で作られています。しかし、「重要なことは、自然な作り方をしているかどうかのプロセスではなく、結果として、美味しい一本のワインを仕上げることにある」と説明してくださった高橋さん。あくまでも、美味しいワインができるためには、何をすべきなのかいうプロセスを追究するという姿勢が、我々も間違いなくお客様に勧める自信につながります。
〇備中岡山藩の山田方谷を彷彿とさせる
何十年も続く老舗ワイナリーを比較して、「新参者は新参者なりのやり方を考えるしかない」とおっしゃる高橋さん。ワインの売り方も工夫を凝らしています。すでにdomaine tettaのワインを手に取って頂いた方はご存じかもしれませんが、エチケットのデザインがオシャレなのです。視覚的に手に取っていただいてから、飲んで美味しいことを知っていただくという入り方もあるだろうと考えて作られたデザイン。また海外への販路展開も挑戦をされており、ニューヨーク、アムステルダムにも出しています。「このワイナリーで働いている人にとって、自分たちのワインがマンハッタンのど真ん中で、飲まれていることを想像したらどれだけワクワクするだろう」と語る目には挑戦心と好奇心が宿っていました。この岡山県新見市は、江戸時代末期、備中松山藩の領地でした。財政難で困窮する藩を、藩主板倉勝静に仕えて立て直した山田方谷。備中の地で取れる鉄で作った「備中鍬」をブランド化、タバコ・茶などの栽培を盛んにすることで、産業復興させ財政を健全化。domaine tettaの訪問の直前に、山田方谷記念館に訪問しており、実は、この人物はお酒が好きだったそうで、酒器も展示されていました。ワインも飲まれていたそうです。ご自身でもよくワインを嗜むという高橋さんが、ワイナリーのお話だけでなく、日本ワイン業界の展望の危うさを憂いている部分も垣間見え、山田方谷なる歴史上の人物と重なって見えたのでした。
文/写真:加藤佳祐