city farm
山梨県
ワイン用ブドウ栽培30年のベテランファーマーが挑む「100年続く」畑づくり
山梨県北杜市小淵沢町、中央自動車道の小淵沢インターを下りてすぐの場所に広大な敷地が醸成されており、そこがcity farmの新しい畑。標高950mにあるワイナリーに到着して畑の向こうを見ると南アルプスの雄大な山麓が見え、ワイナリーの背後には八ヶ岳が見えます。更に南アルプスの横に目を移せば富士山が見え、ため息の出る雄大な景色が広がります。
city farmはこれまで大手ワイナリーメーカーのワイン用ブドウの農場を経営してきた畑づくりのプロフェッショナルの会社。この日お話を伺った取締役の山崎さんも、ブドウ畑をつくり続けてこの道30年。ブドウ畑の現場叩き上げ、実力派の老舗ファーマーが、ブドウ栽培だけではなく、ワインづくりまで行う、それがcity farmです。
現在、山梨県の韮崎と白州にブドウ畑を運営するcity farmさん。2023年現在、新たに小淵沢に広大な畑を醸成中です。この広大な敷地は、元は山梨県北杜市の花パーク フィオーレ小淵沢という市のレジャー施設でした。閉園後は草がぼうぼうで、「草パーク」などと野次られていた場所だそうです。山梨県でのブドウ栽培業界が長く、行政からの信頼も厚かったcity farmは、この地を北杜市から借りてブドウ畑として蘇らせることになりました。この小淵沢の畑は16ha。東京ドーム3.5個分にも相当するこの畑の広さは、これまで訪問した数々のワイナリーの中でも突出して広大です。
畑づくりのプロフェッショナルの拘り
小淵沢の畑はまだブドウの樹が植えられていいなかったため、ブドウ畑を見に、小淵沢の畑から車で20分ほどの場所にある白州の畑を案内してもらいました。この白州の畑は、小淵沢の畑よりも先に2012年からcity farmが手掛ける畑で、既にカベルネソーヴィニヨンやシャルドネといったブドウの樹が植えられています。まず着いて驚くのは畑の傾斜。
とにかく傾斜に畑を作ることがcity farmの特徴だそうです。降った雨を出来るだけ畑の下に作った排水路に流し滞留させないようにしています。台風の次の日でもトラクターが走れるほど水はけが良いそうです。元々この畑の下は活断層で、ブドウ栽培に適した石灰質土壌。そこに更に、有機物が多く含まれる馬糞を堆肥として使ったり、牡蠣の殻を堆肥に混ぜて酸性の土壌をアルカリ性に振るなど、良い土壌づくりに余念がありません。
ただし、手間を掛ければ、その分コストとして反映されてしまいます。機械化などの技術で解決できる部分は意欲的にそれを取り入れる姿勢のcity farm。近いうちに導入されるだろう無人剪定機が通れるよう、畑の通路幅も考えて設計されています。
ブドウの樹の台木、ブドウ品種のクローンの種別、発酵に使う酵母、熟成に使う樽、すべての変数を色々と変えて試してみて、この土地に一番合った方法を見つけ出したいと語る山崎さん。常に嘘偽りのないものをつくっていきたいから、台木やクローン、酵母に関する全てのデータを公表すると決めているcity farm。機械化を取り入れるのも、情報開示をしていくのも、全ては「この畑がずっと続いていくため」です。
100年先もこの畑があるために
この日案内くださったのは取締役の山崎基さん。畑で、山崎さんが以前イタリアのトスカーナ州にブドウ畑を視察しに行った時の話をしてくださいました。トスカーナはイノシシが名物料理で、ブドウ畑の周りにもイノシシがたくさん生息しています。でもブドウ畑は全くイノシシの被害に遭っていない。山崎さんが「どうしてイノシシにブドウを食べられないのか?」と質問したところ、現地の人は「まさか、イノシシがブドウを?!」という反応だったそう。よく話を聞くと、何百年も前からブドウ畑の周りにはどんぐりの樹があり、イノシシはどんぐりの実を食べて満ち足りているから、ブドウを食べに来ないそうです。この時に山崎さんは「この土地の生態系にブドウ畑が一体化している!」という事に気が付いたそうです。
山崎さんが実現したい夢は、「100年後もこの畑が続いていること」。ブドウの樹もその土地に順応し、人間にとっても美味しいブドウを実らせる、誰にとっても無理のない生態系を作り出すという超難題に取り組んでいらっしゃいます。
今まさに醸成中の小淵沢の畑では、ひたすらゴロゴロした石を拾うという作業の真最中。単調でつまらない作業に若手社員が根を上げそうなとき、「その1個の石が、50年後にブドウの根を遮ったり、機械を壊したりするかもしれないと思うと、手が伸びるでしょ?」と声をかけるそうです。「自分の代だけじゃ大したことは出来ない。200歳くらいまで寿命があればいいな、と思うよ。」と笑う山崎さんが見つめるのは、目先ではなくもっともっと未来でした。
黒々とした小粒のカベルネソーヴィニヨン
city farmのもう一つの拘りは「出来るだけブドウのハンギングタイムを伸ばす」こと。つまり、ブドウの実が樹にぶら下がっている(ハンギング)状態を出来るだけ長くすることです。そうして収穫される非常に凝縮感のある果実から作る濃いワイン、しっかりしたお酒、それがcity farmの目指すワインです。特に山崎さんは、10数年前に長野県のとある畑で見たカベルネソーヴィニヨンが忘れられないそうです。黒々として、レーズンくらい小粒で、ぎゅっと凝縮したカベルネソーヴィニヨンのブドウの実。ワインづくりは年に1回しかできません。ブドウ栽培と醸造における限りない変数を試しながら、この土地に合ったワインづくり、100年続く畑づくりへの挑戦は続きます。
city farmさんのカベルネソーヴィニヨンの赤ワインは、飲んだ瞬間「え?これは、日本で作ったワインですか?」と聞きたくなるくらいの凝縮感とどっしり感。訪問してお話を伺い、きっと毎年毎年、進化し続けるワイナリーだろうと確信しました。