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日本ワイン店 じゃん

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ワイナリーの紹介

ココ・ファーム・ワイナリー

栃木県

こころみ学園の園生と、野生酵母が営み続けた50余年の歳月が現在(今)へとつづく

日本ワインの楽しみ方

 栃木県足利市。JR両毛線の足利駅から車で20分ほど走り、田んぼや畑が広がる道を抜けて「ココファームはこちら」の看板の通りに入っていくと、まず見えてくるのが、こころみ学園の宿舎。そのすぐ先に、ものすごい急な斜面のブドウ畑と、おしゃれなワイナリーショップとカフェが現れます。

始まりは中学教諭が開墾したブドウ畑

 ココファームワイナリーの発祥は古く1950年代。知的障害がある中学生たちとその担任教師、川田昇氏によって開墾されたブドウ畑から始まりました。川田氏が園長となる「こころみ学園」で、それまで閉ざされた環境にいた子供達が、畑で活動することで自立し、いきいきしていく噂が全国に広がり、少しずつ仲間が増えていきます。1969年にワインづくりがスタートし園生が100名を超える今に至るまで、ブドウ畑はいつも園生たちが活動する場所です。

ブドウの声に耳を澄ます

 このワイナリーのほぼ全てのワインは、ブドウ果汁を発酵させる際に、乾燥酵母(選抜した野生酵母を乾燥して粉末にしたもの)を使わず、収穫したブドウに付いている野生酵母で発酵させ、ワインに入れる酸化防止剤もかなり少量しか使っていません。出来る限り自然な形で、ブドウの声に耳を澄ませ、ブドウのペースに合わせる丁寧なワインづくりをされています。私が訪問したのはちょうど収穫時期(9月初旬)で、幸運にもブドウ果汁が発酵する様子を見せて頂けました。ブドウを搾ってタンクに入れただけで、ポコポコぷつぷつと発酵していて、「おぉブドウは生きている!」と感じ、”ブドウの声に耳を澄ます”という表現がすっと腹に落ちました。

ちょうどブドウ果汁がぷくぷくと発酵しているところ
野生酵母と園生の営みがワインづくりの鍵

 そんな自然的なつくり方にも関わらず、年間25万本ものワインを生産しているというのがまた驚きです。(メルシャン等の大手を除く国内のワイナリーの多くは、1~5万本の生産量です。)
「自然に近い方法でつくりながら、たくさんのワインを一定の品質で生産することができる、このバランスの鍵は、多くの園生たちの営みがこの地に定着していることにある」と、案内いただいた営業の新井さんは話してくれました。
今だ!という時に皆で一気に収穫することが出来たり、何千本というワインが入った瓶を45度ずつ回す「ルミアージュ*」という作業を毎日正確にやったりといった作業は、人手があるからこそ成せるものなのでしょう。
私がワイナリーに伺った時も、急斜面の畑の上から、鳥を追い払うために園生がカンを鳴らす音が聞こえてきていました。

訪問時は9月上旬でちょうど収穫の始まり時期。園生たちが収穫作業中でした。
カンを鳴らす園生(ワイナリーHPから)

 そして、「知的障害者が作ったものだから買ってあげようと、同情で買ってもらうワインはつくらない」という理念が、25万本の需要を生んでいるとも思います。ココファームのワインが美味しいから、これだけの本数を飲みたい人たちがいるんですね。野生酵母の醸し出す優しさと、きちんと奥行きを感じられる安定感のあるワイン。現在、栃木県の自社畑だけではなく、北海道・山形・長野・山梨などにも契約農家さんがいらっしゃり、ココファームワイナリーを卒業した方が全国で新たにワイナリーを創っていたりと、日本ワイン産業に大きな影響を与え牽引していく存在のワイナリーです。

 畑を開墾した中学教諭の川田昇園長の「消えて無くなるものに渾身の力を注げ」という言葉を今もワイナリーでは大事にされています。慌ただしく生きる現在の私達に、園生やスタッフの方々と、ブドウと酵母が、ずっと営みつづけ創られてきたワインが、何か大事なものを教えてくれる気がします。

川田園長が最初に開墾した急斜面の畑

 

文/写真:加藤曜子

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