駒園ヴィンヤード
山梨県
樹齢80年のブドウの樹を受け継ぎ次の世代へ
駒園ヴィンヤードは、甲州市塩山駅から車で10分程度走り、この界隈ではよく見かける、その昔に養蚕で栄えた大きなお屋敷がたくさん残っているエリアの中にあります。
駒園ヴィンヤードの前身は五味葡萄酒(株)という古くからある醸造所でした(1952年に五味果汁工業として創業)。2015年、醸造を担当されていた五味さんが体調不良でワインづくりが難しくなり、代わりの醸造責任者として声がかかったのが、現在の社長で醸造長の近藤修通さん。当時近藤さんは勝沼のとあるワイナリーでの醸造長を退き、フリーの醸造家として活躍していたそうです。(「フリーの醸造家」という職業がとても興味深いですが、その掘り下げはまた次回にでも。)
五味葡萄酒で代々続いて来た畑と醸造所をそのまま受け継ぐ形で、2019年に駒園ヴィンヤードとしてスタートしています。
醸造所も当時の建物をそのまま活かしていますが、ブドウの茎などを取り除く除梗機や、果汁を絞るプレス機、発酵のためのタンク等は近藤さんが来てから揃えた最新の機材が並びます。
世界中どこのワイナリーでも、ワインづくりは1年に1回しか出来ません。そしてワイナリーに醸造長は一人だけ。一生をアシスタントとして過ごす方もいるそうです。そんな中、駒園ヴィンヤードでは、若いうちから自分で醸造し、失敗も含めて体感することが大事だと、入社間もない20、30代の若手社員に、100㍑ずつ果汁を渡し、自分で醸造する機会をあげているそうです。そうやって若手の育成にも力を入れている理由について近藤さんはこう話してくれました。「昔から受け継がれてきた土地と自然に自分が関わることが出来るのは、次の世代につなぐまでの”ほんの一瞬”。だから傲慢な気持ちでやってると、先代にも次の代にも失礼なんです。」山梨県出身の近藤さん。ご本人は、「まぁ代々受け継いできたバトンを持って、次の世代へ走って、いや歩いているってくらいの感じです(笑)。」と謙遜されていましたが、生まれ育った土地と自然をまた次の世代へ受け継ぐ営みが生涯のナリワイになっているというのは、とても素敵だと感じました。
“Tao”という駒園ヴィンヤードのフラッグシップワインのシリーズ名は、「天地自然の理(ことわり)に従う」で有名な中国哲学上の用語の「道(Tao)」が由来となっています。
自然の営みに従い、除草剤などで雑草を除かず、雑草に生息する虫や土の中の微生物のチカラを借りてブドウを育てます(草生栽培)。土壌改良や肥料も、貝殻の粉末など有機素材のもののみを使います。ブドウ本来の味、畑ごと、年毎(ヴィンテージ毎)の味の違いを最大限活かすために、醸造で使う酵母はできるだけニュートラルなもの(香りなどを付けないタイプのもの)を使っているそうです。
目指すのは、欧州ワインのレプリカではない日本オリジナルで日本でしかつくれないワイン。パンチが効いていたり香りが華やかなヨーロッパに多いワインと違い、駒園ヴィンヤードのワインは滋味深い美味しさ。日本の食卓にならぶ料理とも本当に良く合います。
毎年100㍑のワインを仕込む若手の方が、この駒園ヴィンヤードの将来を担うようになり、更にその次の代がまた引き継いで、ずっと受け継いでいくべきものがある。その過去と未来に思いをはせずにはいられません。
大切に引き継がれてきた樹齢70歳以上の樹から収穫したブドウのみでつくる特別なワインも、収量が確保できる年はリリースするそうです。今から待ち遠しいです。
文/写真:加藤曜子