ドメーヌコーセイ
長野県
満を持して「メルロ」のみ!味村さんの集大成
長野県塩尻市。シャトーメルシャンの「桔梗ヶ原(ききょうがはら)メルロ」というワインを見聞きしたことがある方も多いのではないでしょうか。長野県の中央を走る飛騨山脈(北アルプス)と、筑摩山地に挟まれた松本盆地にある塩尻市桔梗ヶ原地区で作られるメルロ品種の赤ワインは、日本最高の赤ワインとして世界的に高い評価を得ていることで有名です。同じ松本盆地、その桔梗ヶ原地区からすぐ近くの片丘地区がドメーヌコーセイさんのある場所。
私が伺ったのは2022年8月お盆過ぎ、鎌倉市在住の私はジメジメした暑さ嫌気がさして来た頃。塩尻駅に降り立つと、日差しは強いですが、湿度が無く吹き抜ける風が気持ち良い。塩尻という場所が、日照時間が長く、強い風も吹くためブドウが病気になりにくくブドウ栽培の適地であることを肌身で実感しました。改札で代表の味村興成さんと待ち合わせをしていたのですが、味村さんが見当たらずウロウロ。小柄で優しい笑顔の年配の方に声を掛けられ、聞いてみるとその方が味村さん。「メルシャン勝沼ワイナリーの元醸造責任者」の肩書を持つ日本ワイン業界では名士である味村さんを、“背の高いエレガントな雰囲気のおじ様”と勝手に想像していたため、「この人は違うな」と素通りしてしまっていました。「凄い方に会う」と緊張していましたが、ワイナリーへ向かう車中、朗らかにお喋りしてくださる味村さんのお陰で私もリラックスして色々とお話しさせていただけました。
仕事人!味村さんの第二のワイン人生
味村さんはメルシャン勤務時代、1988年から奥様と当時0歳だったお子さんを連れてフランスボルドー大学へ留学。お子さんが寝静まった夜中に勉強し、ボルドー大学認定のテイスティング試験にも合格されたそうです。「試験に落ちたらエルメスのバッグを買ってよ、なんて家内に言われてね。」と懐かしそうに当時のことを話してくださいました。仕事に打ち込み人生全てをワインに懸けてきたきた味村さん。1987年生まれの私は、高度成長期に日本の成長を支えた“昭和のおやじ(敬意を込めて)”のお話しを、当時メーカーに勤務しロケットエンジンの開発に勤しんでいた自分の父に重ねながら聞いていました。
味村さんは、シャトーメルシャンを退職後、この片丘地区でドメーヌを設立し第二のワイン人生をスタートさせます。これまでのワイン人生の集大成、その時に味村さんが選んだのは「メルロ」という品種でした。日本で作るならメルロしかない、ならば実績のある塩尻だ!はじめは桔梗ヶ原地区で畑を探し出したそうですが、既に大手ワイナリーの開拓も進み広い圃場を確保することが難しく、桔梗ヶ原から8キロほどの片丘地区に畑とワイナリーを構えます。日照時間、風、土壌、ブドウ栽培にとって片丘地区は様々な好条件が揃っており、「いつか桔梗ヶ原と同じように、メルロなら片丘、と言ってもらえるようにしたい」と、メルロのみを栽培、醸造するワイナリーとして味村興成さんの集大成、ドメーヌコーセイがスタート。
こだわり抜いた片丘のメルロー
味村さんが意識するのは、長期熟成に耐える味わい深い赤ワイン。このようなワインを創り出すために、これまでの経験を活かして選び抜かれた最新設備が揃う醸造所を案内していただきました。ドメーヌコーセイさんでは、畑で収穫する時点で選果して未熟なブドウなどは除き、収穫したブドウをすぐに絞っていきます。果汁を絞る際も、あまり絞り過ぎずきれいな果汁部分のみワインとして醸造していくそうです。ドメーヌコーセイさんの5ha程の畑から出来るワインは約32,000本程度。これは通常のワインづくりの搾汁率からすると非常に低いそうです。畑から醸造、瓶詰に至るまで、各工程で、それまでの味村さんの経験と知識から判断される数々の最良の選択によって、最高のメルロワインが出来上がります。
樽熟成に使う樽も、こだわりの最高級のものを使っていらっしゃいます。ドメーヌコーセイさんのプライムシリーズは、もちろん全てメルロ100%で「401」「503」「601」と3種類。商品名は全て、1とその数でしか割り切れない素数です。割り切れる事のない素数のように、神秘的で美味しいワインを追い求めて創り上げられる片丘メルロの赤ワイン。401はアメリカンオークで熟成させたメルロ、601はフレンチオークで熟成させたメルロ、503はアメリカンとフレンチそれぞれの樽のブレンド、といった具合に、樽の違いを楽しめるラインナップ。「薄旨い」と言われがちな日本の赤ワインですが、ドメーヌコーセイさんの赤ワインはしっかりと飲みごたえのあるワインです。
鎌倉市の当店(日本ワイン店じゃん)では、海外ワインを飲み慣れて「しっかりした赤ワインを」と仰るお客様や、ちょっとした記念日やプレゼントなどで探していらっしゃるお客様に、よくドメーヌコーセイさんのワインをお勧めしています。皆様も味村さんの集大成、極上の片丘メルロをご賞味ください。
文/写真 加藤曜子