平川ワイナリー
北海道
品種は非公開、畑でワインをデザインするプロフェッショナル
NHK朝の連続テレビ小説「マッサン」の舞台になったニッカウヰスキーの蒸留所で有名な北海道余市町。余市駅から車で約15分。小高い丘に佇むウッディな雰囲気の建物と葡萄畑。大げさな看板も無く本当にここで良いのかと一瞬目を疑います。つばの大きなハットを被った、すらりとした長身で鋭い眼光の男性が工事業者の方と話していました。声をかけてみるとその方が代表の平川敦雄さん。確かにそこが平川ワイナリーでした。
孤高の天才が拓くワイナリー
殆どの大学生が何も考えずに、大学卒業後に就職活動でもしそうな22歳という年齢で、高い志を抱いて、単身渡仏。最高峰の国家技術養成機関でブドウ栽培、ワイン醸造を学んだ後、フランスのワイナリーで12年間、技術を磨きながら、フランス、日本の一流レストランでのソムリエの経験も持つ平川さん。余市町はワインの銘醸地になると確信し、2015年にこの地でワイナリーを設立しました。
土地の持つ力を信じて
「正直、うちのワインは売りにくいですよ、ブドウの名前を言わないから」と会話の冒頭から虚を突かれます。ワインの産地としての土地が持つ力、一本一本の木が持つ個性を最大限引き出したワインを作りたいという想いで、品種の異なるブドウを同一のタンクで醸造する方法、いわゆる混醸されるワインにはブドウが取れた区画ごとで名前が付けられています。「NOTRE SIECLE(我々の時代)」、「SOLITUDE(孤独)」、「SELEN(女神)」といずれもフランス語で名づけられた白ワイン。たとえば、22歳から単身で渡仏し、12年間、フランスで修業する中、移動のフライトで窓越しに見たヨーロッパアルプスの最高峰のモンブランから感じた唯一無二の風格から、人にもワインにもぶれない芯の強さが必要と思い、「ひとりでも負けない強さ」、「個性を持ち続けること」といった想いをもとに作られたワインには「SOLITUDE(孤独)」の名前が付けられています。表現したい想いをワインの名前に付けるあたりが平川さんらしく、平川さんが醸すワインは、それぞれの区画を表現した味わいとなっています。
美食文化に寄り添うワイン
そんな平川さんが目指すのは、「美食文化に寄り添うワイン」。ソムリエをしての経験を活かし、美食とのマリアージュを追究したワインづくりが特徴です。自宅で開催した手巻き寿司パーティの際に、脂のしっかり乗った新鮮な真鯛の刺身と平川さんの白を合わせてみたところ、食卓を囲む一同が唸る味わいでした。平川さんの白ワインは、新鮮な魚介によく合います。また9月から10月にかけて、同じ区画から複数回に分けて収穫されたブドウを使い分けてワインを作っています。最初に収穫する酸が強いブドウはロゼ、スパークリングとなり、訪問時に試飲させていただいたロゼの味わいはスパイスを効かせた羊肉、バーベキューにもよく合いそうな味わいでした。
まるで修験道
ここまでの話でお分かりの通り、美食文化に寄り添うワインづくりを追求する平川さんの心の底まで射抜くような眼差しには厳格さがあり、真理を追究する姿はどこか修験道に明け暮れる修行僧のようでした。訪問させていただいた2022年6月には、工場業者の方々が入れ替わり立ち代わり、第二醸造所の建設真っ只中でした。その後、第二醸造所は2022年8月には完成。Facebookで立派な建物と整然とした外観を見ながら、これからも野心に満ちた平川さんが作り出すワインが楽しみで仕方ない今日この頃です。
(*写真は平川ワイナリー様提供)
文:加藤佳祐