まるき葡萄酒
山梨県
西郷だ、政府だ、いや、ワインだ!
■西南戦争をしていた時代からワインづくり
山梨県甲州市勝沼町にある老舗ワイナリー、まるき葡萄酒。老舗と言っても、他ワイナリーとはレベルが違います。設立はなんと1891年。日本が、「西郷だ、政府だ」と西南戦争をしていた時代に、フランスに醸造を学びに海を渡った青年がいました。土屋龍憲さん。彼がこのまるき葡萄酒を設立した人物。フランスのブドウからフランス料理に合うワインが文化として根付いていることを実感した土屋龍憲さんは、「日本のブドウから日本料理に合うワインを」目指してワインづくりに取り組みました。日本固有の品種である甲州やマスカット・ベーリーAでワインを作ることに向き合ってきた歴史と、蓄積されてきた経験の豊富さは、他ワイナリーに真似できるものではありません。高い品質、それも安定した品質のワインを常に生産し続けるためには、栽培と醸造時に細かい作業まで手を抜かず、そして、「良いものをつくりたい」という熱意が長い年月のあいだ継承されていくことが必要です。まるき葡萄酒さんは、130年もの間、その時々で変わる自然環境の下で育ったブドウを使いながらも、この高いレベルのものづくりを継続されてきました。凄いです。
まるき葡萄酒さんのワインセラーには、一升瓶に入った60年を超える古いワインが眠っています。これまでの歴史を知ってこの貯蔵庫に眠るワインたちを見させていただいたのですが、とても迫力のある光景でした。
■日本のブドウ品種で日本料理に合うワインを
まるき葡萄酒さんのつくる、日本固有品種の甲州やマスカット・ベーリーAを使ったワインを飲んだ時は、日常で私たちが楽しめる価格帯で、こんなに美味しくて和食に合うワインがあるんだ!と驚きました。これは、まるき葡萄酒さんが積み重ねられてきた試行錯誤の結果だと思います。マスカット・ベーリーAというブドウ品種に至っては、この品種専用として開発された樽で熟成されていました。これはほんの一例で、1本2千円ちょっとのワインの背景には、きっと膨大なトライアンドエラーがあるのだと思います。
■伝統と革新と
ちょうど次の日には関東では積雪があったほど寒い2月にワイナリーを訪問しました。ワイナリー横のブドウ畑では羊がのんびりと日向ぼっこしていました。まるき葡萄酒さんでは、ブドウ畑に肥料もやらず耕すこともしない「不耕起草生栽培」に取り組んでいます。羊が雑草を食べ、糞が土に還りブドウ畑の土壌をつくる、羊もれっきとした社員だそうです。
こうして収穫されたブドウの美味しさをそのままワインに表現できるよう、設備も最新のものが並びます。例えば、ブドウ果汁を絞る機械。できるだけ酸化しないよう、機械の中に窒素ガスを充満させ、搾り取った果汁も一切酸素に触れることなくタンクまで運ぶことができる仕組みです。
これまでの歴史がありながら、常に挑戦を続け、私たちに美味しいワインを作り続けてくれるまるき葡萄酒さん。きっとこれから100年先も、常に進化を求めてものづくりをするワイナリーであり続けていらっしゃると思います。
文/写真:加藤曜子