ウッディーファーム&ワイナリー
山形県
未来を見据えたサスティナブルなワインづくりを目指す
2023年1月上旬、山形県、かみのやま温泉駅からタクシーに乗ること15分。「ウッディファーム&ワイナリー」というワイナリー名であることは知っていたが、目に飛び込んできたのは、まさに板張り外壁のウッディーな雰囲気が満載の建物でした。清々しい挨拶をしてくださった醸造責任者の金原さん。このワイナリーは、「ファーム&ワイナリー」というぐらいなので、元来は、さくらんぼ、ラ・フランス、ワイン用のブドウ栽培をしてきた果樹園であり、2013年にワイナリー事業が創立されそうです。
サスティナブルなブドウ、ワインつくり
颯爽とした足取りで畑やワイナリーを案内してくださいながら、「この上山(かみのやま)の土地でワインをつくることが何十年も先の将来に渡って続く持続可能なものとしたい」と語る金原さん。畑、ワイナリーの至る所に、そのための工夫が見られます。例えば、畑では、熟練したブドウ栽培家でなくとも、作業がしやすくなるように、ブドウの木が仕立て方を工夫されています。日本では、枝が四方八方に網目状に巡らせられているX字長梢仕立てによる棚栽培が一般的ですが、ウッディファーム&ワイナリーの畑では、作業がしやすいように、一本ずつ枝が規律正しく並ぶ一文字短梢仕立てによる棚栽培を採用しています。また、畑の見学の後に、ワイナリーも見せていただきました。グラビティフローと言われるシステムを導入し、設備がレイアウトされています。グラビティーは重力、フローは流す。簡単に言ってしまえば、わざわざポンプを用いて果汁を移動させずに、重力によって果汁を流しているのです。二階で除梗、破砕した果汁を重力の力を使って一階にあるタンクに流すことで、わざわざポンプで吸い上げることをしなくてもよいのです。出来るだけ果汁に負担を与えず、余計な人的労力も電力も用いないことから、このシステムを取り入れています。さらに、電力もソーラーパネルで賄っています。あらゆる場所に、効率的に、かつ持続的にワインづくりができる仕組みが取り入れられています。
上山市だからできることを追究し、競争力の源泉を生み出す
「上山市の自然環境の特徴は10月に晴れる日が多く、10、11月まで収穫時期を引っ張ることで、ブドウの収穫を遅らせ、十分に熟度を上げた状態のブドウでワインをつくることができる。さらには、気温の下がった10、11月にブドウを収穫することで、ワインづくりに悪影響がある微生物、菌の繁殖を抑えることができる。」と語る金原さん。弱みを改善していくのではなく、上山という土地の持っている強みを最大限に生かしています。話を伺いながら、どれもとても合理的な発想だなと感心しきりでした。そして、主にスペイン、ポルトガルの大西洋沿岸で栽培されることが多いアルバリーニョ、フランスの南西部のピレネー山脈で栽培されてきたプティマンサンといった、日本ではまだ積極的に栽培されていないブドウ品種の栽培に取り組むことも他ワイナリーに対する競争力を生み出す源泉となっています。こういった合理的な判断の一つ一つが、ひいては、上山での持続可能なワインづくりに繋がってくるのだと思います。
若い醸造責任者のもつポテンシャル
説明が論理的で説明上手な金原さんは、肌の張りが良いし、白髪も少ないので、お歳を伺ってみたところ、なんと35歳。筆者は、既に2023年1月で38歳のアラフォー。若いにも関わらず、しっかりした方だなと思いました。帰り際に、「大学時代(東京農業大学出身)は米焼酎造りを専攻して、卒業後は都内の酒販店に勤務。日本酒造りの経験を経て、地元の上山でワインづくりを始めた。ワインづくりは、ブドウが育つ土壌や気候、ブドウの生育状況と変数が多い。そこがワインづくりの面白いところ。」とこれまでの経歴を説明してくださった金原さん。若くても頼もしく、自信に溢れているのは、質の高い経験の積み重ねがあるからこそなのでしょう。今後、7~8社の新規ワイナリーが増える予定の上山市。金原さんが上山の地で若手のリーダーとなり、この地のワイン産業の発展を引っ張っていくことを期待して止みません。同世代として非常に親しみやすくも、頼もしく、そして日本ワインの持つポテンシャルを感じた訪問でした。
文/写真 加藤佳祐