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日本ワイン店 じゃん

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ワイナリーの紹介

ワタリセファーム

福岡県

「欲張らない」農業でつくる美しいワイン

日本ワインの楽しみ方

福岡空港から車で1時間と少し走り、北九州市若松区という場所にワタリセファームがあります。大型ショッピングセンターが立ち並ぶ幹線道路を抜けて、海沿いの道に入ると急に田んぼやキャベツ畑ばかりの景色になり、立ち並ぶ古い農家のうちの1軒がワタリセファームです。

代々受け継いだ農業というナリワイ

ワタリセファームの藤田家は代々この土地で農業をしてきた一家です。栽培・醸造を一人で担う藤田さんのお祖父様が、戦争から帰還してから建てたという、古い建屋(昔はお米の乾燥機などを置いていたそう)をリフォームして醸造設備を入れています。

奥の建屋が醸造所

藤田さんのお父様は、兼業農家でしたが途中で脱サラして、自分がやりたいイチゴの栽培を始めて20代後半から専業農家になった方だそうです。当時ではまだ取り組む農家が少なかった減農薬での栽培に挑戦し、農協の団体などには属さず自分のやりたい農業をやっていたというお父様。藤田さんが幼い頃、家の軒先にプレハブ小屋を建てて、両親がイチゴをお客へ直接販売する姿を見ながら育った藤田さんが、農業からワインを造って自分で販売するのは自然な流れでした。

きっかけは玉村豊男さんの一冊の本

「長男だから」と藤田さんが農業を継いだのは20歳のとき。農家の後継ぎとして、農業を家業として成り立たせ続けていくには今のままではいけないと感じていた藤田さんは、この土地を活かして何か”製品”をつくりたいと思っていたそうです。そんなことを考えていた19歳の藤田さんが出会ったのが、ヴィラデストガーデンファーム&ワイナリー(長野県東御市)の設立者である玉村豊男さんの本でした。農業からワインという製品ができることを知り、ワインづくりを考えるようになったそうです。

研究熱心な藤田さんは、当時、長野県東御市でブドウ栽培とワインづくりに挑戦していたRue de Vin(長野県東御市)の小山さんのブログもずっと読んでいたそうです。

東御市でうごめくワインムーヴメントの始まりを北九州から見ていたある日、ヴィラデストのHPに、ヴィラデストガーデンファーム&ワイナリーと、Rue de Vin、はすみファームの3社からワインづくりを学べる勉強会が開催されると掲載されているのを発見します。参加条件は「東御市への移住」だったそうなのですが、ダメ元で問い合わせたところ、条件付きで参加できることになり、ここから藤田さんのワインの道が始まりました。

今では全国指折りの醸造家であるヴィラデストの小西さん、Rue de Vinの小山さん、はすみファームの蓮見さんという、名だたる醸造家たちに学び、北九州に帰ってきた藤田さん。

2013年に苗木を買って自分の畑にブドウを植えました。最初は醸造免許を持つ事業者に委託して醸造をしていましたが、自身が醸造免許を取得するため、北九州市をワイン特区として申請するよう自ら市役所と交渉し、見事に特区に認定されます。晴れて2018年に醸造免許を取得されました。

”無理のない”畑づくり

醸造所の小さな机の上には、藤田さんが読み込んでいる農法に関する本がずらり。

「最初はどうやったら虫が来ないんだろう?」と思って調べてたんです、と言いながら机に並んだ本をパラパラとめくり「ほら、面白いでしょ?」と農法について説明してくださいました。

農薬や肥料をやらずとも、ブドウのホルモンバランスを整えてあげれば、健全で美味しいブドウが出来る。枯れたブドウの枝が土に還り、ブドウの樹のもとに生える植物や微生物の力で土が維持され、そこからブドウの樹が吸い上げる栄養と太陽の力で実が出来る。そのシンプルな流れを静かに良く観察し、丁寧にブドウを育てていらっしゃいます。

ブドウの樹のもとでマメ科を育てると、窒素を地中に蓄えてくれブドウの栄養になるそう

畑での取り組みの全ては美味しいワインをつくるためであり、ナチュラル製法を実践することは目的ではなく、あくまで手段。自分の手が行き届く範囲で可能な選択肢を取っていった結果が自然農法だった、ということが藤田さんのロジカルで淡々とした口調から伝わってきました。

剪定作業をする藤田さん

“欲張らない”から生まれる美しさ

誰もブドウを作っていない土地でワインづくりを始め、特区認定を取得し、すごい行動力の藤田さんですが、偉業を淡々とこなしているように見えるのは、藤田さんのテーマが「欲張らない」だからでしょうか。自然体で、無理なく。そんな姿勢が反映されるワタリセファームのワインは、非常に美しい味わいとブドウのエネルギーを感じるワインです。

初めて我が家で飲んだ夜の翌朝には、ワタリセファームの電話番号に電話をかけてしまったくらい「また飲みたい」と思わせるワイン。

今後はピノ・ノワール品種を植えて増やしていくそうで、ますますこれからが楽しみです。

文・写真/加藤曜子

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